姑獲鳥の夏

観に行きました。余り好意的な感想ではありませんが京極作品を映像化する事の難しい事を理解した上の発言なのでご容赦下さい。又、京極夏彦原作「姑獲鳥の夏」のネタバレにも言及していますので未読の方はご注意下さい。


話の時系列順に色々書こうとしましたが2時間分の駄目出しは疲れるので纏めます。
先ず全編通して演出が酷い。過剰過ぎる。京極夏彦の描く恐怖と言うのは原作に置ける眩暈坂のエピソードにもある人の想像力を利用した「いる訳のないものがいる様な気がする」恐怖であり、大別すれば静かな恐怖だと解釈しているのですが、映像故にそれを覆そうとしているのか雷や叫びと言った大きな音や曰くありげに挿入される姑獲鳥の映像と言った動きの恐怖での演出が合わない事甚だしい。それも効果的であれば新しい側面を打ち出せたのかもしれませんが、関口のフラッシュバックで現れた実写版姑獲鳥に閉口。実写の女性の腕の部分に翼を付けたものが挿入されたのですが、私の感想は「怪奇大作戦ってこんな感じだったのかしら…」でした。この映像は何回か使われ、古書の姑獲鳥の絵も併用されるのですがいっそそちらだけの方が良かった。度々挿入される変な音や停電の筈なのに当たるピンスポやぐるぐる回る赤い光も意味不明。
個人的に重要であり問題が色々出そうな梗子の出産場面をどう処理するかに興味があったのですが物凄く適当。脱力しました。他の余計な演出差し引いてもここに力を入れて欲しかったです。赤子を引き渡す場面の緊迫感も足りませんでした。下半身血塗れは拙いのかも知れませんがせめて雨を。そう言えば雷だけ鳴って停電はしましたね。
要は全て微妙に古臭い。設定が昔ですのでこう言った演出でも逆に良いのかもしれませんがそれにしては安っぽく、センスが感じられない。効果的に使えていない。
話の筋も全般的に端折りがちで説明不足。あの分厚さを2時間に纏めるのは難しいので筋を追うだけになるのは仕方なく、紙芝居で話を省略するのは効果的ではあるかなと思いました。その割に関口のこの辺りは墓場云々の台詞は残して置く意味が分かりません。この台詞、原作では関口の精神が不安定で鬱を患っていた頃の記憶が混濁して出るのですが、映画では後にも先にもその様な説明がないので宙ぶらりんの侭です。
謎解きに関しても原作を読んだから分かる様なもので、未読の方には影の薄かった母親が黒幕だなんて納得行かないと思います。関口が見落としていたと言う事実も謎解きで分かった様なものですし。関口の語りである地の文がないのでより多く説明説明に時間を費やさねばならない筈が、それがないので映画だけならば突拍子もない展開でした。京極堂の御祓い場面は中途半端、榎木津の乱闘場面もカットと原作の良い部分を潰そうと言う心意気を感じました。
配役は、榎木津以外はまあ良いかなあと思っていたのですが(ビスクドールの様と形容された男が何故阿部ちゃん…?)悪い方に裏切られました。堤真一は暗い喋りは良いですが滑舌が悪過ぎて語尾が曖昧。榎木津はあんなに自分が神だと言い張っているのに不思議な能力を持つだけのまともな人になり下がり、木場はガタイが足りない。阿部ちゃんの方が圧倒的に良い体なので並ぶと見劣りして可哀想な事になっていました。敦子は明るい部分がありつつ肝が据わった子をイメージしていたらきゃいきゃいし過ぎで記者とは思えず。原田知世は妖しさが足りないものの薄幸そうで良かったですが少女役も兼ねたら年齢差に無理が生じていました。配役に外見上の違和感があっても演技で幾らでも変えられる筈なのにこれらは演技指導の問題なのか何なのか。

前日に友人と「何処かに京極夏彦が出ているかも知れない…」と言い合っていたら本当にいて笑えました。水木しげる役でしたがポジションは多々良先生?

今、褒める部分を一生懸命探していたのですが永瀬正敏が良い男なのにちゃんと猿顔になっていた事と、荒川良々が出ていた事です。あの一言二言の台詞で私は幸せになれました。
2時間かけて原作の駄目なPVを観た様なものでした。贋作が好きな人程不満が出る作りな上に未読の方がこれで京極夏彦を見限ってしまうかもしれないのが悔しい。誰かと一緒に悪口を言いたい人は観る事をお勧めします。個人的にはビデオ化されてからレンタルで十分です。