「鏡地獄―江戸川乱歩怪奇幻想傑作選」
- 作者: 江戸川乱歩
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1997/11
- メディア: 文庫
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「人間椅子」 作中作なのでこれも叙述トリックと言うのでしょうか。叙述トリックはどこでそれを明らかにするかと言うのも肝要ですがこれは幕引きも鮮やかでぞっとした後にすかっとします。読後の嵌められた悔しさに心中で身悶えしました。後の「芋虫」や「陰獣」もですが乱歩は人間を肉の塊として描写している事が多く、それもこの話が妙な生々しさを持っている理由ではないかと。余談ですが読む前は人肉をクッション代わりに使った椅子の話だと思っていました。
「鏡地獄」 最後に発狂する迄の流れは淡々と書かれている割に鏡やレンズによって変化した目を通した世界が延々綴られるので退屈しません。内部が凹面鏡になっている球体に写るものは何処かのサイトで試算がされていたと思うのですが失念しました。
「人でなしの恋」 人形に恋をした夫とその妻と言う題材、妻が過去を振り返る形で語るのも比較的目新しくないですが矢張り丁寧に作られた人形は怖い。絶対呪われそうなのにそれをバラバラにした妻が怖い。愛の力って怖い。落ちは心中だろうなあと特に驚きもなし。題名は好きです。
「芋虫」 人体切断は苦手なのですがこれだけは好きです。この命題でエロティックなものを出せるのが凄い。最後の部分を明確には描写せず、妻の描いた幻で表現するのに合わせて読者にも想像を喚起させるのが上手いと思いました。話がずれますが現代でこの話を書いたら袋にされるんでしょうね、当時ですら発禁処分だそうですので。乱歩自身は偶々好都合な材料を選んだだけだそうなので文学に意味を持たせようとする人と持たせるつもりがない人との認識の差なんだろうなあ。
「白昼夢」 正に白昼夢ぴったりの長さと緊張感。こういった猟奇的で夢か現実か分からない短編が大好きです。京極夏彦は屍蝋は自然には出来難いと書いていた気がするのですが作る気になれば出来るものなのでしょうか。
「踊る一寸法師」 徹底的に残酷で復讐劇と言う言葉で括るには猟奇過ぎる。一寸法師が本気なのかも知れないと途中で気付いた辺りからはずっと「どっちだ?どっちだ?」と思いながら読みました。厭な予感は良く当たる。これも今書いたら捕まりそうな話です。
「パノラマ島奇談」 極彩色の夢の島。そんなに上手く行くわけないだろう、と言う話で夢と言うか悪夢の様な話ですがその偏りが過剰で強いので話に引っ張りこまれます。最後迄兎に角悪夢。止まらずに読んだら毒に中てられた様な気分になりました。
「陰獣」 ミステリの枠組みで中身はホラー、どっちつかずでもなく綺麗に融合されています。真実が幾通りも用意されている結末も好きです。乱歩自身を彷彿とさせる作家が登場し、良く似た名前や内容の作品も作中に現れるので知っている人やこの本を最初から読んだ人には分かると言う配置の妙もあります。只、妻が被虐嗜好の持ち主である必要はあったのかな、まあ仮に妻の一人三役だったとすればあれ自体が壮大なプレイと言えなくもない?